男性型脱毛症(AGA)の基礎的研究 (第2部) 育毛剤と遺伝子

硫酸転移酵素とミノキシジル硫酸塩

ミノキシジルは、プロドラッグです。つまり、体内に入ったあとに、化学構造が変換されて、活性化された後に、はじめて、薬理効果を発揮するようになるタイプの薬です。

ミノキシジル自体には、毛包に対する薬理学的効果はありません。ミノキシジルは髪の濃さを増加しません。

経口摂取の後や、頭皮に塗布された後に、ミノキシジルは、腸や頭皮から吸収されて、血液循環に入ります。多くの薬は皮膚からかなりよく吸収されます。そして、皮膚の毛細血管から血液に入ります。

吸収されたミノキシジルは、血流に乗って全身の皮膚の毛乳頭に到着します。そこで、ミノキシジルは、毛包の外毛根鞘にある、硫酸転移酵素と呼ばれる特定の酵素によって、その活性型である、硫酸ミノキシジル(ミノキシジル硫酸塩)に変換されます。

硫酸ミノキシジルは、ミノキシジルの活性型です。
この硫酸ミノキシジルには、毛周期の成長期を延長することで、頭髪の直径を太くする臨床効果があります。これが、ミノキシジルが頭髪を太くして、髪を濃くするメカニズムです。

ミノキシジルの有効性については、5%ミノキシジル溶液を、頭皮に塗る外用治療を、16週間続けた場合、頭髪の密度が39%の症例で増加した、という結果が報告されています。

これは、ミノキシジル治療に反応のよい方(レスポンダー)が、人口の約40%であることを意味しています。

ミノキシジルの臨床効果は、毛包の外毛根鞘に存在する酵素である、硫酸転移酵素の活性によって決まります。

この硫酸転移酵素の活性の良し悪しに、個人差があるのです。

ミノキシジルの効果
レスポンダー対ノン・レスポンダー

硫酸転移酵素の活性が良好な方々は、「レスポンダー」と呼ばれます。これらの方々は、材料となるミノキシジルの量が同じでも、他の人々よりも多量の硫酸ミノキシジルを産生することができます。その結果、脱毛症の患者では、薄毛領域の頭髪密度が十分に増加します。
ミノキシジルに対する反応のよい方(レスポンダー)の割合は、人口の約40%と報告されています。

ミノキシジルによる治療に、特別に良く反応する方は、「スーパー・レスポンダー」と言えます。
彼らはとても幸運な人々です。ミノキシジル溶液を頭皮に塗るだけで、フサフサの頭髪とボリューム感を楽しむことができるようになります。そのような方々は、実は、少数です。

過半数の方々では、ミノキシジルの反応は、それほど良くはありません。
酵素活性の弱い人では、少量のミノキシジル硫酸塩しか生成することができません。

人口の約60%の人々は、硫酸転移酵素の活性が、十分ではないと報告されています。このような方々では、ミノキシジルは、他の人たちよりも、効果が低くなります。
その場合、使用するミノキシジル液の量を増やすか、外用液の濃度を濃くすると、有効である場合があります。

硫酸転移酵素の酵素活性が非常に乏しいか、あるいは、ほとんど活性がない方々は、ミノキシジルに対する「非応答者(ノン・レスポンダー)」と呼ばれます。ミノキシジルに対するノン・レスポンダー(非応答者)の割合は、人口の約20%と考えられています。

ノン・レスポンダーでは、ミノキシジルは硫酸ミノキシジルに変換されないので、ミノキシジルの治療は効果を発揮できません。
ノン・レスポンダーで、しかも、男性型脱毛症や、びまん性脱毛症の素因がある方々では、ミノキシジル錠を経口で内服しても、あるいは、ミノキシジル溶液を頭皮に塗布する外用治療を行っても、髪は濃くならず、年齢とともに薄毛が進行していきます。

ところで、ミノキシジルの副作用に関しては、経口でミノキシジル錠を内服する治療では、吸収率が高いので、外用でミノキシジル溶液を頭皮に塗る治療法に比べて、全身性の副作用がでる確率は、大きくなります。

SULT1A1 遺伝子
ミノキシジル

硫酸基転移酵素の活性の違いは、遺伝子の違いによるものと考えられています。

SULT1A1遺伝子は、硫酸基転移酵素の、酵素活性に関係しています。

SULT1A1遺伝子は、ミノキシジル硫酸転移酵素(SULT1A1)をコードします。
これはミノキシジルを、その活性型である、硫酸ミノキシジルに、変換する酵素です。

SULT1A1*2遺伝子型に多型性がある、特定の患者さんたちの数は、人口の約20%と言われています。これらの患者さんたちでは、酵素活性が非常に低い可能性があります。

ある特定の患者さんたちで、ミノキシジルの効果がとても弱いことは、この遺伝子多型性が、その理由だろうと考えられています。

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