DNAの不思議
DNAは細胞外の環境中にあふれている

まとめ
DNAは細胞外の自然環境の中にたくさん存在しています。 それどころか、自然の環境はDNAであふれています。
この環境中のDNAは、DNAやRNAの材料として再利用されて、自然界で循環しています。
また細胞外DNAは、自然界では、遺伝子とは別の不思議な働きをしています。
それは、微生物と細胞外DNAの共同体としての「バイオフィルム」を形成して維持することです。 これも細胞外DNAの重要な働きです。
解説
ミトコンドリアが太古の昔に「好気性バクテリア」だった頃は、自分のDNAを複製するためのDNAポリメラーゼの遺伝子をもっていました。 しかし、現在では、DNAポリメラーゼ遺伝子を共生した細胞の核に移していて、いまやミトコンドリアは単独では増殖できなくなっています。
ミトコンドリアは、進化の過程で、好気性バクテリアのころの多くの遺伝子を、共生した細胞核に移して、残った遺伝子だけが現在のミトコンドリアDNAとして残っています。 不思議なことです。
ところで、DNAは不思議な役割を持つ存在といえます。
従来のわれわれの理解では、DNAは遺伝情報の設計図で、細胞の核の中にいるものと考えられていました。
しかし、実際には、地球上の自然環境の中には、大量の細胞外DNAが存在しているのです。 ここでは、東京理科大学の武村政春博士のご意見をご紹介しましょう。
DNAは細胞外の自然環境中にあふれています。
細菌や生物の死体や排泄物から、DNAが環境中に排出されます。 また、あらゆる生物の細胞が「エクソソーム(細胞外小胞)」として、細胞外にDNAやRNAを分泌しています。
バクテリア同士がお互いに遺伝子を交換する際に、DNAを細胞外にこぼすこともあります。
これら環境中のDNAは、分解されたり、ほかの生物の核酸(DNAやRNA)の材料として再利用されたりして、DNAは自然界で循環しています。
こうして、土壌や水の自然環境には、膨大な量のDNAが、生物の体の外に存在しています。 むき出しのDNAは、紫外線、放射線、酵素などで分解されてしまいます。 一方、被膜に包まれたDNAはタンパク質を作る能力を維持し続けます。 それが無数の「ウイルス」です。
細胞外DNAは、自然界では、遺伝子とは別の不思議な働きをしています。
不思議なことに、地球上のDNAのほとんどは、遺伝子とは別の働きをしているようです。
自然環境にいる細胞外のDNAの役割は、いったい何でしょうか?
自然界では、多くのバクテリアは、細胞外DNAとともに「バイオフィルム」という膜状の構造体を作って暮らしています。 これは微生物と細胞外DNAの共同体です。 この生態系で、バクテリアの吸着や、バクテリア同士の相互作用に、細胞外DNAが重要な役割を果たしているのです。
自然界では、細胞外DNAが細胞内DNAの25倍も量が多いので、バイオフィルムを形成して維持することが、細胞外DNAの重要な働きなのです。
これが、遺伝子とは別のDNAの役割です。
(参考文献)
武村政春著。DNAとはなんだろう―「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり。ブルーバックス、講談社、東京。2024年8月刊。
RNAによる遺伝
獲得形質の遺伝、RNAワールド仮説

まとめ
RNAによる遺伝では、エピジェネティクな変化が世代を超えて遺伝することで、獲得形質も遺伝します。
RNAだけでも遺伝情報を伝えて、タンパク質を作ることができます。 これがRNAによる遺伝です。
生命の初期には、RNAによる情報遺伝のみの世界でした。
解説
さらに不思議な話が続きます。
これまで、獲得形質は、引き継がれないと考えられてきました。 しかし、獲得形質は子孫に情報を伝えられているのです。
ここでは、体細胞に由来するRNAが、生殖細胞にエピジェネティックな変化を誘導することで、獲得形質の情報が子孫へ伝えられるというのです。 神戸大学の中屋敷均博士の解説をご紹介します。
DNAが巻き付いたヒストンとよばれるタンパク質に、いろいろな化学的修飾が加わったものをエピジェネティクスといいます。 エピジェネティクスの化学的修飾で遺伝子発現が変化することが信号になり、化学的修飾の変化が後代に遺伝する情報となって、遺伝子発現が制御されて獲得形質が遺伝するのです。 こうして、獲得形質も遺伝します。 これはDNAの遺伝子配列によらない遺伝の方法です。
生命の初期には、RNAが遺伝情報を保持し、タンパク質を作っていたようです。 これを「RNAワールド仮説」といいます。 いまでは多細胞生物は、DNAの遺伝情報からタンパク質を合成していますが、それ以前には、DNAに依存しない、RNAのみによる情報遺伝の世界があったと考えられています。
(参考文献)
中屋敷 均著。遺伝子とは何か? 現代生命科学の新たな謎。ブルーバックス新書、講談社、東京。2022年4月14日刊。
ミトコンドリアは母系遺伝-1

まとめ
母親のミトコンドリアDNAは子供に遺伝しますが、父親のミトコンドリアDNAは子供に遺伝しません。
遺伝病のミトコンドリア病は、ミトコンドリアの機能異常によって起こりますが、DNA変異による病気は、母親から子供に遺伝します。
解説
ミトコンドリアには、いろいろ不思議な現象がみられます。
たとえば、遺伝の仕方が特徴的です。
母親のミトコンドリアDNAは子供に遺伝しますが、父親のミトコンドリアDNAは子供に遺伝しません。 なぜでしょうか? その理由は、まだ解明されていません。
有核細胞の核内DNAは、両親のDNAが半分ずつ子供に遺伝しますが、ミトコンドリアDNAは母親だけから遺伝します。
たとえば、ミトコンドリア機能に関連した遺伝病がありますが、そのいくつかは、細胞質遺伝であり、母親から子供に遺伝する可能性があります。
父親から子供には遺伝しません。
精子の細胞質は子供に伝わらないので、父親のミトコンドリア病は子供に遺伝しないのです。
たとえば母親が家族性糖尿病の場合、その子供たちは、将来、糖尿病になるリスクが高いです。
このように、ミトコンドリアの機能異常による遺伝病では、DNA変異による病気は、母親から子供に遺伝します。










