ミトコンドリア(第2部) 若返り・健康・長寿の秘訣

がん細胞もミトコンドリア移動を利用?
ミトコンドリアの細胞間伝搬(2)

まとめ

ミトコンドリア移動」に関連して「ミトコンドリアの細胞間伝播」の研究もすすんでいます。

がん細胞は、自分のミトコンドリアを使って、免疫系の攻撃を回避する機構をもっているようです。

解説

ミトコンドリアの移動に関連して、「異常なミトコンドリアの細胞間伝播(mitochondrial transfer)」の現象も明らかになりました。 がん細胞は、免疫系からの攻撃を避けるために、免疫を回避する機構をもっているのです。

がん細胞は、自分の細胞のミトコンドリアをリンパ球に移動させることによって、Tリンパ球が腫瘍組織のがん細胞を攻撃して来ないように、前もってTリンパ球に細工をしているというのです。 Tリンパ球に勘違いさせて、がん細胞はリンパ球の仲間だと思わせることにより、細胞免疫系が自分を攻撃しないようにして、がん細胞が自分自身を守る仕組みがあるようです。

岡山大学の冨樫庸介博士の研究をご紹介します。 がん細胞が、自分の異常なミトコンドリアを使って、免疫系から攻撃されないようにリンパ球を細工して、がん細胞自身が生き残る作戦を行っているという、驚くべき研究結果が報告されています。

大阪国際がんセンターの横田貴史博士の研究も注目されています。 ミトコンドリアの細胞間伝播を利用して、Tリンパ球による細胞免疫系の攻撃をすり抜けることにより、異種移植後に拒絶反応が起きないようにして、異種移植後の臓器を定着させようという研究が始まっています。

(参考文献)

1. Ikeda H, Togashi Y, et al. Nature 638, 225-236, 2025.

2. Nagasaki J, Togashi Y, et al. Cancer Sci 113(10); 3303-3312, Oct, 2022.

がん細胞は免疫細胞のミトコンドリアを盗み取る
ミトコンドリアの細胞間伝搬(3)

まとめ

がん細胞は、免疫細胞のミトコンドリアを盗み取ることにより、免疫細胞の攻撃を逃れて、自分をパワーアップしてリンパ節で生き延びて、さらに遠隔転移していくようです。

解説

ミトコンドリアの細胞間移動に関する別の研究もあります。

がん細胞は、免疫細胞のミトコンドリアを盗み取ることで、自分をカモフラージュし、さらにパワーアップして、リンパ節で生き延びるという研究です。

悪性腫瘍が、早期がんから進行がんに変わっていくときに、がん細胞は局所で周囲組織に浸潤して増大していくと同時に、近くのリンパ節に転移します。 そして、そこを足がかりにして、さらに遠くに広がっていきます。 やがて遠く離れた肝臓や肺に遠隔転移して、ついには全身に広がっていきます。

でも皆さん、ちょっと変だとは思いませんか?

リンパ節は免疫細胞の塊ですから、がん細胞を殺せるはずのTリンパ球などがいっぱいいる場所です。 なぜ、がん細胞は、リンパ節の中で、攻撃されずに、無事に生き延びることができるのでしょうか?

がんに対する免疫監視機構が正常に働けば、キラーT細胞やNK細胞による免疫反応はがん細胞を殺傷するはずです。

本庶佑博士の研究によると、免疫チェックポイント阻害剤を使ってキラーT細胞にがんを攻撃させる免疫療法では、Tリンパ球が本気を出して免疫応答してがん細胞を攻撃する結果、がん細胞は殺されて、悪性腫瘍の進行が抑えられるはずです。

実は、がん細胞は、ミトコンドリアがほかの細胞に移動する性質を利用して、免疫細胞をハイジャックしてミトコンドリアを奪い取り、自分を味方だと思わせてカモフラージュをすることよって、免疫細胞の攻撃を逃れて、身を守っているようです。 しかも、がん細胞は、取り込んだミトコンドリアのエネルギーでパワーアップします。

逆に、ミトコンドリアを失った免疫細胞は強力なエネルギー発生源がなくなり弱体化します。

若い人ではミトコンドリアも元気なので、若いパワー源をもらったがん細胞はさらに元気になり、がんの進行が早く、予後も悪くなる傾向があります。

老人のミトコンドリアは弱っているので、それを取り込んでもがん細胞は少ししか強くなれず、がんの進行がゆっくりだというわけです。

がん細胞は、あの手この手を駆使して、免疫細胞の攻撃を回避し、パワーアップして生存・増殖しながら、遠くまで広がり、脳にさえも転移していくのです。

(参考文献)

Terasaki A, Okwan-Doudu D, et al. Cell Metab 38(2): 388-398, Feb 03, 2026.

Kidwell CU, Roh-Johnson M, et al. eLife 12: e85494, Mar, 2023.

Hoover G, Grelet S, et al. Nature 644: 252-262, June, 2025.

ミトコンドリアの若返りで、がんを予防
アルツハイマー病の人はがんになりにくい

まとめ

アルツハイマー病の人は、がんになりにくいことが臨床経験から分かっています。 最近の研究で、その機序が明らかにされました。

そこでは、ミトコンドリアの若返りによる、免疫T細胞の機能の若返りが関与していました。

この研究は、ミトコンドリア移植や、新しいがんの予防薬など、がんの免疫療法につながる可能性があります。

解説

アルツハイマー病に関連したタンパク質が、免疫システムを強化していることが報告されました。(Cancer Research 2025) その研究結果によると、がん、神経変性の病気、加齢による機能低下などが、今後予防できるようになる可能性があるというのです。

従来の臨床経験で、アルツハイマー病の患者は、がんの発症リスクがとても低いことが分かっていて「アルツハイマー病とがんのパラドックス」(the Alzheimer’s-cancer paradox)と言われていました。

アルツハイマー病は、記憶や認知機能が徐々に破壊されるので認知症に進行する主要な原因の一つとして有名ですが、実は、がんになるリスクが著しく低いというパラドックスが以前から指摘されていました。

疫学的な統計によると、59歳以上のアルツハイマー病がある患者では、がんになるリスクが非常に低く、同年代のアルツハイマー病がない人の21分の1なのです。 その理由は、これまで不明でした。

最近の研究の結果、さまざまなことが解明されました。 アミロイドβが脳細胞に蓄積している症例では、脳神経細胞でのミトファジーの機能が障害されていました。 ミトファジーは、損傷したミトコンドリアを取り除いて、細胞を掃除するオートファジーの作用の一種です。

脳細胞の内部に機能低下したミトコンドリアが蓄積すると、神経細胞が老化して、記憶力や認知機能が低下します。

ところが、アミロイドβが蓄積した人のT細胞では、T細胞の機能が若返って、がんを防御する能力が高まっていました

アミロイドβが蓄積した細胞では、ミトコンドリア内のフマル酸の生成が抑制されてフマル酸が減少していました。

フマル酸は、ミトコンドリアのオートファジーであるミトファジーを抑制する機能があります。 フマル酸が減少すると、ミトファジーが増加して、健康で機能が若返ったミトコンドリアの数が増加したのです。

さらに、アルツハイマー病の患者のT細胞からミトコンドリアを採取して、ほかの高齢者のT細胞に移植すると、移植された人がもっていた老化T細胞も若返って活発に機能し始めました。

若返ったT細胞を移植された高齢者では、もともとの老化したT細胞も若返って、機能的に若く健康なT細胞が全身で増加して、がんの発生を抑制しました。

老化したT細胞の機能が若返る現象は、アルツハイマー病の患者の新しい側面といえます。 アルツハイマー病の患者では、ミトコンドリア内でフマル酸の生成が抑制された結果、ミトファジーが促進されて若返った健康なミトコンドリアが著明に増加して、がんになりにくくなったのです。 これが「免疫システムの若返り」(Rejuvenating the immune systemです。

アルツハイマー病のメカニズムが今後解明されていくと、がんの免疫療法として、若く健全なミトコンドリアを移植してがんを予防する、免疫療法としての「ミトコンドリア移植」が実用化されていくかも知れません。 あるいは、「フマル酸に関連したがんの予防薬」の開発も今後期待されます。

さらには、免疫療法による神経変性疾患の治療などにも応用されるかも知れません。

免疫化学療法によるがん治療の最近の進歩により、一部の進行がんの治療戦略も変化してきています。

たとえば、これまでは「切除不能」と判断されていた、III期の非小細胞肺がん(NSCLC)の外科治療で、先に免疫化学療法をおこなって、腫瘍が縮小した後にコンバージョン手術をおこなったところ、がんの切除が可能になり、予後が改善したという報告がみられます。

(参考文献)

Ogretmen B, Sonawane K, et al. ScienceDaily Top Health, Med Univ South Carolina, Oct 13, 2025.

Kassir MF, Ogretmen B, et al. Cancer Research 85 (19): 3791, 2025.

Cho BC, et al. NEJM 391(16): 1486-98, 2024.

Cho BC, et al. J Thorac Oncol. Oct, 2025.

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