日本人の腸内細菌叢の特徴

まとめ
日本人の腸内細菌叢には、ビフィズス菌が豊富で、海藻の多糖類を分解できる酵素を持つ菌が9割の人にみられることが特徴です。
解説
日本人の腸内細菌叢は、世界の国々と比べて、違いがあることが分かりました。
それは、ビフィズス菌の割合が多いことと、海藻を分解できる酵素を持っていることです。
東京大学・早稲田大学・東京医科大学の共同研究によると、世界37ケ国で比較したところ、食生活や遺伝的背景の違いから、日本人の大腸にはビフィズス菌(Bifidobacterium属)が豊富に存在しました。
これは、欧米人と違って、牛乳に含まれている乳糖を小腸で分解できない乳糖不耐症の人が日本人に多いことが関係しているようです。
また、ノリやワカメなどの海藻に含まれている多糖類を分解できる酵素(β-porphyranase、β-agarase)を持つ腸内細菌が、日本人では90%以上に見られますが、欧米人ではそのような腸内細菌はほとんど見られませんでした。
東アジアの国々でも、韓国にはなく、日本人にだけワカメの多糖類を消化できる酵素の遺伝子(CAZymes)を持つ腸内細菌(Bacteroides plebeius)があって、その酵素porphyranasesとagarasesにより、ワカメなどの海藻を分解・吸収して栄養にできるのです。
ですから、欧米人は海藻類を食べても消化吸収できませんが、日本人は海藻類を分解・吸収して栄養にできるのです。
ほかにも、日本人の腸内マイクロバイオームには、数種類の腸内細菌が多くみられました(プリボテラ(Prevotella)、エガセラ(Eggerthella)、アシダミノコッカス(Acidaminococcus)、メガスファエラ(Megasphaera)など)。
腸内細菌叢は、地理的にも歴史的にも変化しているようです。
たとえば、セルロースはブドウ糖の重合体ですが、ヒトは草や紙を分解できません。
ヤギはセルロースを分解する腸内細菌(セルロソーム酸性菌)を持っているので、草や紙を栄養源にできます。
ゴリラやカンガルーなどの草食動物も、セルロースを分解できる腸内細菌を持っています。
ところで、古代の人や昔の農村部のヒトは、セルロースを分解できる腸内細菌を持っていたらしいという説があります。
そのような腸内細菌は、先進国や最近の都市部のヒトでは消滅しています。
パプアニューギニアの高地に住む人々は、タロイモが主食で、タンパク質を食べる機会が少ないのに、筋肉隆々の体型をしています。 それは、窒素を固定できる機能をもつ腸内細菌を持っていて、タロイモの窒素や、飲み込んだ空気中の窒素を、アミノ酸に変換して、筋肉の材料として利用しているらしいと考えられています。
マメ科の植物の根に根粒菌が共生していて、根粒菌が大気中の窒素(N2)をアンモニア(NH3)に変換し、植物はそのアンモニアを吸収して、タンパク質を合成する「窒素固定」を行っているのと似ています。
このように、日本や世界各地の人々の腸内マイクロバイオームは、遺伝的背景や食文化の影響を受けていて、それぞれ特徴的な違いがあります。
(参考文献)
1. Nishijima S, Nagata N, et al. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci 102: 82-103, 2026.
2. Hehemann JH, Michel G, et al. Nature 464: 908-912, Apr 8, 2010.
3. Morais S, Mizrahi I, et al. Science 383(6688): eadj 9223, Mar 15, 2024.
腸内細菌叢
第1〜4部のまとめ

腸内細菌叢は、免疫防御、気管支喘息、糖尿病など、さまざまな病気の予防や腸の動きなどにも関係していることが分かっています。 最近では、認知症の予防にも役立っていると言われています。
このように、腸内細菌叢は、単なる雑菌ではなく、宿主動物の健康のために、なくてはならない重要な存在なのです。
この章では、腸内細菌叢に関する最近の情報を含めて解説しました。
健康寿命を延長して健康長寿をめざすためには、高齢者のフレイル、サルコペニア、認知症、骨粗しょう症、感染症、その他いろいろな病気を予防することが大切です。
腸内細菌叢に善玉菌を増やして、善玉菌と上手に共生しましょう。
腸内細菌叢を制御して腸内細菌叢を健全な状態に保って、健康長寿の生活を実現しましょう。
腸内細菌叢(第4部)

(以上、文責:柳生)
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