腸内細菌叢(第4部) 美肌と若返り、病気と認知症の予防、健康長寿

腸肺軸(腸肺連関) (Gut-Lung Axis)

まとめ

腸肺軸(腸肺連関)(Gut-Lung Axis) という言葉があります。

腸は肺と連絡を取り合っていて、腸内細菌叢の産生する代謝産物が、肺機能に影響していることが最近分かってきました。

このとき、腸内細菌叢は、短鎖脂肪酸を使って肺と連絡しているようです。

解説

以前は、肺の末梢組織の下気道は無菌だと思われていました。 しかし、2013-2014年以降の研究で、肺の下気道には、腸内と同様に、細菌、ウイルス、真菌など、たくさんの微生物が常在していることが分かってきました。

腸肺軸(腸肺連関)(gut-lung axis)という言葉があります。 肺と腸の細菌叢(マイクロバイオーム)は密接に関連し合っていて、常在ウイルスや常在細菌がIgAを含む免疫システムによって、私たちを感染症から守っているのです。

肺に常在する微生物やウイルスが、肺の環境と免疫応答を調節して、肺の健康と恒常性の維持に重要な役割を果たしています。 そして、外来の微生物やウイルスによる感染を予防しているのです。

肺の細菌叢は、腸内細菌叢と密接に関連して、影響し合っています。 この章の始めの部分で、腸脳連関のことをご紹介しました。

それとは別に、腸管の健全な細菌やウイルスが、肺の健康な細菌叢を維持して、肺の感染症の予防と肺機能の維持に貢献しているという意味で、腸肺軸(gut-lung axis)あるいは肺腸軸(lung-gut axis)が、最近注目されています。

そして、健康な肺のマイクロバイオームが、肺の健康と恒常性を維持しているのです。

近年の研究で、腸内細菌叢がさまざまな全身の炎症性疾患と関連していることが報告されています。

そして、腸内細菌叢が分泌する代謝産物が、肺の機能や気道炎症に影響して、エネルギー代謝や免疫応答を調節していることが、最近わかってきました。

腸内環境が肺の健康を左右します。 良い腸内環境を維持することで、肺の病気を予防できる可能性が明らかにされています。

その際に、腸内細菌叢は、短鎖脂肪酸を介して、肺と連絡を取り合って、感染抵抗力や免疫応答を調整して、宿主の恒常性の維持に貢献しているようです。

腸内細菌は、食物繊維を代謝することで短鎖脂肪酸を産生します。

短鎖脂肪酸は、炭素の数が2-6個の脂肪酸の総称で、エネルギー代謝に関わるホルモン分泌調整を介して、メタボリックシンドロームの発症予防にも関与していることが指摘されています。

肺疾患の中でも、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や、気管支喘息などで、糞便中の腸内細菌叢や腸内細菌代謝産物に変化が生じていることが報告されています。

たとえば、喫煙により腸内細菌叢が影響を受けて変化し、短鎖脂肪酸が減少する結果、炎症性サイトカインやケモカインの産生が増加して、肺胞破壊が増悪するという関連が報告されています。

喫煙による腸内細菌叢の変化が、肺の健康や病気に関係しているのです。

治療によって腸内細菌叢が改善すると、短鎖脂肪酸が増加して、炎症細胞が減少し、肺胞破壊が抑制されます。

短鎖脂肪酸(SCFAs)を産生する菌による二次的刺激によって、抗炎症作用が発揮され、免疫担当細胞に作用します。

その結果、COPDのリスクが低下し、肺のバリア機能が向上して、肺がんのリスクが低下します。

(参考文献)

ヨz軋m M, Lynch SV. Nature Reviews Microbiology 22; 492-506, May 22, 2024.

腸肝軸(腸肝連関) (Gut-Liver Axis)

まとめ

腸肝軸(腸肝連関)(Gut-Liver Axis) という言葉もあります。

腸内細菌叢は短鎖脂肪酸を使って肝臓とも連絡を取り合っていて、免疫調節や炎症抑制の働きをしています。

解説

腸肝軸(腸肝相関)(Gut-Lung Axis) も最近注目されています。

これは腸と肝臓が物質と情報のコミュニケーションをおこなうことで、腸内細菌叢、胆汁酸、免疫システム、代謝経路が連携して、体内のネットワークを形成していることを意味しています。

腸は栄養素や腸内細菌由来の代謝物質を門脈経由で肝臓に送ります。 肝臓はそれを代謝して胆汁酸や代謝産物を腸に送っています。

腸内細菌叢が産生する短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸、酪酸などは、全身の免疫調節や炎症抑制の働きをしています。

さらに腸内細菌叢は一次胆汁酸を二次胆汁酸に変換して肝臓に送り、肝細胞の機能に影響しています。

腸肝軸では、腸内細菌叢と胆汁酸が重要な役割をはたしています。

腸内細菌叢の乱れは、慢性的な炎症や肝細胞の老化を起こして、脂肪肝、肝硬変、肝臓がんの発症リスクを高める可能性が指摘されています。

さらに腸肝軸は、免疫システムにも影響しています。

このように、腸内細菌叢は、全身のさまざまな臓器の機能や免疫システムの恒常性の維持と、組織の炎症性反応の予防に関連していることが注目されています。

細菌叢変化による全身組織の炎症性の線維化

まとめ

腸や肺の細菌叢(microbiome)の乱れ(dysbiosis)と変化により、全身の臓器や組織で炎症反応、組織の線維化が起こり、臓器障害にすすむことが研究されています。

解説

ヒトの体内には、各所にさまざまな細菌叢(microbiome)があって、ヒトと細菌が共生していることが分かっています。

その細菌の総数は、ヒトの体の細胞数の約10倍の数があり、成人が体重を測るとき、その約1.5~2kgは実は細菌叢の重量なのです。

ヒトが健康に生きるために、これらの細菌叢は無くてはならない重要な働きをしています。

これらの組織内の細菌叢は、さまざまな全身の病気を予防しています。

逆に細菌叢に異常(dysbiosis)が起きると、いろいろな病気の原因になると考えられています。

ここでは、組織の細菌叢(microbiome)とさまざまな疾患に関する、三重大学の小林哲博士の研究をご紹介しようと思います。

小林博士の研究によれば、肺や腸の悪い細菌叢(microbiome)が作る物質が、全身の組織の炎症反応や線維化を誘導しているのです。

体内の細菌叢(microbiome)が乱れると、いろいろな細菌から細菌由来物質であるCorisin類似ペプチドが作られ、血中のアルブミンと強く結合して安定した状態で体内を回ります。

その結果、組織の細胞に活性酸素(ROS)が蓄積して、組織の細胞で、アポトーシス、上皮間葉転換(EMT)、内皮障害、炎症プロセス、細胞老化が起こります。

そしてさまざまな臓器で、筋線維芽細胞の活性化や、細胞外マトリックスの沈着の結果、組織の線維化がすすんで臓器障害につながると考えられています。

全身の臓器で細胞損傷、炎症反応、繊維化が起きると、腎臓では腎硬化症、肝臓では肝硬変、心臓血管では心筋線維化・心血管障害、肺では肺線維症が起きます。

ほかにも、皮膚疾患、婦人科疾患・不妊、整形外科疾患、消化器疾患・炎症性腸疾患、肥満、糖尿病、生活習慣病、腎不全、肝不全、心不全、脳血管疾患などにつながると考えられています。

また、腸内細菌叢の乱れは、肺がんの免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)が効かない場合や、発がん性との関連も注目されています。

臨床的に善玉菌を増やして肺や腸の細菌叢のバランスをととのえて、アポトーシス、活性酸素の増加、細胞老化、上皮間葉転換(EMT)、内皮障害、炎症反応を抑制することが重要です。

将来は、corisinを抑制する物質(ヒト化抗corisin抗体など)を使って、全身の組織の炎症反応や線維化を予防する治療も期待されます。

特発性肺線維症の進行速度を予測するバイオマーカーはないので、症状の悪化や、CT画像の解析、呼吸機能の拡散能などで判断します。

血清のKL-6, SP-D, MMP-7に加え、HMGB1のほかに、ケモカインのCCL 18, αVβ3, αVβ5, インテグリンのリガンドperiostin, コラーゲン代謝のPRO-C6なども注目されています。

また、遺伝子マーカー、サーファクタントやテロメア関連遺伝子なども、進行速度や予後を予測するバイオマーカーとなる可能性が期待されています。

(参考文献)

1. D’Alessandro-Gabazza CN, Kobayashi T, et al. Nat Commun 11(1): 1539; Mar 24, 2020.

2. Molyneaux PL, et al. Am J Respir Crit Care Med 190(8): 906-13; 15, 2014.

3. Suqi L, Huaman L, et al. Front Cell Dev Biol 31; 13: 1535601, Mar, 2025.

4. Natalini JG, Singh S, Segal LN. Nat Rev Microbiol 21(4); 222-235: Apr, 2023.

5. Nina YL, Nishikawa H, et al. Nature 644(8078): 1058-68, Aug, 2025.

6. Routy B, Zitvogel L, et al. Science 359(6371): 91-97, Jan 5, 2018.

7. D’Alessandro-Gabazza CN, Gabazza EC, et al. Nat Commun 13(1): 1558; Mar 23, 2022.

8. Yasuma T, Gabazza EC, et al. Nat Commun 16(1): 7591; Aug 25, 2025.

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