口腔内細菌叢と膵臓がん

まとめ
口の中の衛生状況が良くない人は、口の中の細菌叢が、膵臓がんのリスクを約3倍増加している可能性があるようです。
解説
口の中の衛生状態が悪い人は、口腔内の細菌叢が、臓がんのリスクを約3倍高めているかも知れないという報告があります。 米国のニューヨーク大学の研究です。
口の中には、たくさんの微生物がいますが、それらの口腔内の細菌と真菌のマイクロバイオーム(微生物叢)を調べた研究結果です。
歯周病菌の中でもPorphyromonas gingivalis、Eubacterium nodatum、Parvimonas micraなどを含む13種類の細菌と、Candida属やMalassezia属などの4種類の真菌を含む、合計27種類の細菌やカビが、膵臓がんリスクを3.4倍高めているという結論でした。
膵臓がんは早期発見が難しく、見つかったときにはすでに進行がんになっていることが多くて、治療しても予後が悪く、5年生存率が13%しかないことで知られています。
口の中の衛生状況が良くないことが、膵臓がんとどう関係しているのか、詳しい関連は不明ですが、デンタルフロスや歯磨きなど、口の中のお手入れは大切なようです。
(参考文献)
Meng Y, Ahn J, et al. JAMA Oncol 11 (11); 1331-1340, Sept 18, 2025.
組織の細菌叢
組織内細菌叢(tissue microbiome)

まとめ
体中のさまざまな臓器や組織の中にも細菌叢があり、いろいろな働きをしている可能性が、最近の研究で分かってきました。
解説
肺や腸を除くと、ヒトや動物の体の内部の組織や臓器は外界に接していないので、無菌状態だと従来考えられてきました。
ところが、最近の医学研究によれば、ヒトの体内は無菌状態ではなく、体のさまざまな臓器や組織の中にも、何らかの細菌が住んでいる可能性が指摘されています。
たとえば、健康なヒトの心臓、筋肉、腸管壁、乳腺組織をはじめ、肝臓のような実質臓器でも、それぞれの組織に特異的な微生物の存在が示唆されています。
その機能や臨床的意義についても、少しずつ研究が進んでいます。
何と、がんの組織の中にも腫瘍内細菌叢があるようです。
千葉大学の研究によると、肺の扁平上皮がんでは、腫瘍内に細菌叢の量が多いほど、再発率が高く、生存率が低くて、予後が悪かったようです。
大腸がんや大腸ポリープの組織の中にも細菌叢が発見されています。 米国Vanderbilt大学の研究では、その細菌叢が、腺腫の再発や予後のリスクと関係していました。
米国Texas大学の研究によると、脳腫瘍の中にも細菌叢があって、それらは口腔内の歯周病や腸内にいるのと同じ種類の細菌で、それらが神経膠腫(glioma)や転移性脳腫瘍の成長や転移などに関与している可能性が指摘されています。
このように、いろいろな組織で細菌叢(tissue microbiome)と腫瘍の形成や予後との関係が研究されています。
さらに、小児の心臓病のひとつである川崎病でも、腸内細菌叢の乱れが、発症リスク因子の一つになっている可能性が、関西医科大学から報告されています。
(参考文献)
1. Ochi T, Kaneda A, et al. Cancer Science 116(7): 2040-2046, Jul, 2025.
2. Awan UA, Guo X, et al. JAMA Network Open 9(2): e2556853, Feb 4, 2026.
3. Morad G, Wargo JA, et al. Nature Medicine 31: 3675-3688, Nov 14, 2025.
4. Teramoto Y, Kaneko K, et al. Frontiers in Immunology 14: 1268453, Oct 31, 2023.
腸内細菌叢の乱れと全身疾患
腸内細菌叢とさまざまな疾患の関連

まとめ
腸内細菌叢の乱れは、免疫防御や、糖尿病などさまざまな病気、腸の動き、認知症などに関係している可能性が指摘されていました。
さらに最近の研究で、腸内細菌叢の乱れは、気管支喘息、高齢者のサルコペニア(筋力低下)、感染症のリスク、睡眠不足による体調不良、などにも関連しているようです。
解説
従来の研究で、腸内細菌叢の乱れは、免疫防御や、糖尿病などさまざまな病気、腸の動き、認知症などに関係している可能性が指摘されていました。
最近の研究で、腸内細菌叢の乱れが、さらにさまざまな病気と関連していることが分かってきました。
腸内細菌叢の構成は国や地域によって異なっていて、日本人には特有の腸内細菌叢があり、さらに性差もあるので、他の国の研究結果は参考資料としても、その結果がそのまま日本人にあてはまるとは限りません。
やはり、われわれは日本人を対象にした研究の結果を知りたいところです。
気管支喘息に関する研究で、日本人の成人の気管支喘息患者の多くでは、腸内細菌叢の異常が起きていて、短鎖脂肪酸を産生する菌が減少していることが、日本大学などから報告されました。
酪酸、プロピオン酸、酢酸などの短鎖脂肪酸は、気道炎症に対する保護効果があります。
従来、成人の気管支喘息は治りにくいと考えられてきましたが、その理由の一つに、腸内細菌叢の異常まで考慮した治療が行われていなかったことがあるかも知れません。
今後は、成人の気管支喘息の予防や改善には、腸内細菌叢の構成を考慮した食事療法や、善玉菌を積極的に摂取するプレバイオティクス、プロバイオティクスなどの治療も考慮するとよいでしょう。
日本人のデータに基づく順天堂大学での研究では、高齢男性で筋肉量が減少して歩行などの運動機能が障害されるサルコペニアに、腸内細菌叢の異常が関連しているようです。
日本人の健康な腸内細菌叢には酪酸産生菌が多く、その菌が産生する酪酸(短鎖脂肪酸)は免疫調節作用や炎症反応を抑える働きがあります。
さらに、筋肉のタンパク質の合成を促進して、筋肉の萎縮の原因になる炎症を抑制し、筋力を維持する効果があります。
今後は、高齢者の腸内細菌叢の内容を考慮した治療をおこなうとよいかもしれません。
オランダとフィンランドのデータを解析したアムステルダム大学の研究では、腸内細菌叢の酪酸産生菌が10%増えると感染症による入院リスクが14~5%低下することが分かりました。
腸内細菌叢の善玉菌が産生する短鎖脂肪酸の一種である酪酸は、大腸細胞のエネルギー源の大部分(約70%)になっていて、全身の感染症に対して保護効果があり、ヒトの健康に重要な役割をはたしています。
今回の研究により、腸内細菌叢の乱れは、重症感染症の潜在的な要因である可能性が示唆されました。
そして、腸内細菌叢に酪酸産生菌を増やすことで、感染症のリスクを減らすことができる可能性が考えられました。
日本人のデータでは、睡眠不足が続くと、腸内細菌叢が破綻して、免疫機能に重要な酪酸や酢酸など腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸が低下することが北海道大学から報告されました。
睡眠時間が短い人では、腸管の自然免疫をになう抗菌ペプチドのαディフェンシン(alpha defensin)分必量が減少していました。
睡眠不足が精神的な不調や身体的不調を起こして、さまざまな病気の原因になることが、以前から体験的にも知られています。
そのメカニズムとして、睡眠障害により、小腸上皮のPaneth細胞からのαディフェンシン分泌低下がおきて、それが腸内細菌叢の異常を招いて腸内細菌叢が破綻(dysbiosis)し、自然免疫低下と疾患リスク増加につながると考えられました。
睡眠不足により腸内細菌叢が乱れて、その組成が変化することによって、脳腸相関の影響により、精神的および身体的な体調不良が起きて、さまざまな全身の病気につながる可能性が、今回の研究により明らかにされたのです。
睡眠不足によって体調が悪くなることは、しばしば我々自身が体験することです。 寝不足による体調不良や下痢に対しては、酪酸菌製剤であるビオスリーやミヤBMを内服して、酪酸菌を直接補うプロバイオティクス治療を著者はおすすめします。
(参考文献)
1. Hirano C, Gon Y, et al. Biomedicines 14(1): 125, Jan 8, 2026.
2. Asaoka D, Sato N, et al. Nutrients 17(10): 1746, May 21, 2025.
3. Kullberg R, Wiersinga J, et al. Lancet Microbe 5(9): 100864, Sept 2024.
4. Shimizu Y, Nakamura K, et al. Gut Microbes 15(1): 2190306, 2023.










