腸脳連関 (brain-gut interaction)

まとめ
腸と腸内細菌叢は、多面的な機能を発揮して宿主と共益関係にあり、必須ビタミンの産生、免疫系の調整、脳と連絡し合って双方向的に影響を及ぼす脳腸連関など、重要な機能を果たしています。
解説
ヒトや動物の腸は、食物を消化して、栄養分を吸収するための、単なる管だと考えられてきました。
しかし、腸は、消化吸収以外にも、免疫系の調整やそのほか、さまざまなほかの機能をもっているので、最近の医学の研究では、腸はひとつの臓器だと考えられるようになってきました。
この場合、腸の複雑な働きは、腸内細菌叢と腸がセットになって発揮される機能なのです。
もし、仮に、腸内細菌叢がなければ、小腸や大腸は単なる管でしかありません。
ところが、腸に腸内細菌叢が住んでいて、宿主と共益関係を築き上げていることにより、腸は、多面的な機能を果たすことができるのです。
近年、腸内細菌叢の研究が盛んになってきました。 そして、以前は考えられなかった重要な機能が、次々と、明らかにされてきました。
たとえば、大腸の腸内細菌叢は、体を維持するために欠かすことのできない、多くの種類のビタミンを産生しています。
また、免疫系を調節して、生命にとって重要な役割を果たしていることが分かってきました。
さらに、大腸と脳が密接お互いに連絡し合って、いろいろな体の調節をしているという、驚くべき事実が、分かってきました。
腸と脳は遠く離れていますが、自律神経系の遠心性神経と求心性神経を介して、密接に連絡を取り合っています。
さらに、ホルモンやサイトカインのような液性因子を介しても、お互いに影響し合っています。
この双方向的な関係のことを、「脳腸連関(brain-gut interaction)」と言います。
このような意味で、腸は、それ自体がたくさんの機能を持っていて、健康な体を維持するために重要な、ひとつの臓器であると、最近は考えられています。
日本語の表現で、「腑(ふ)に落ちる」という言葉があります。「腑」とは「はらわた」という意味で、「胃と腸」のことをさしています。 つまり、脳が理解して納得するときには、胃腸に納まるという意味になります。
これは、頭脳と腸が関連しているということを指している言葉のように思われます。 昔の日本人の知恵は、脳腸連関のことを暗示していたのかも知れません。
脳腸連関は、最近の医学のトピックのひとつです。
そこで、重要な働きをしているのが、実は、腸内細菌叢の善玉菌なのです。
腸内細菌叢と脳
脳腸相関 (brain-gut interaction)

まとめ
脳腸相関に関連して、腸内細菌叢の乱れが、アルツハイマー型認知症、統合失調症、不眠症、うつ病、糖尿病、高血圧、免疫の病気、感染症などの全身と関係しているという説があります。
解説
腸内細菌叢が乱れると、認知症、不眠症、うつ病、糖尿病、高血圧、免疫の病気、感染症など、全身に影響が及びます。
脳と腸が、ホルモンやサイトカインによって、お互いに連絡し合って、体のさまざまな機能を調節していることを、脳腸相関といいます。
アルツハイマー型認知症の原因に関して、脳の細胞に、アミロイドβやタウタンパク質が蓄積することが原因であるという説のほかに、アポリポタンパク質Eの蓄積も、アルツハイマー型認知症の発症と関係がありそうだという説があります。
そして、それに、腸内細菌叢の代謝物質である短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)が関係しているようです。
この脳腸連関は、認知症の予防にも役立つ可能性があることが指摘されています。
腸内細菌叢の乱れと認知症の関連は、最近の研究のトピックの一つになっています。
さらに、腸内細菌叢の乱れは統合失調症にも関連している可能性が、最近指摘されています。 ラクトバチルス属とビフィズス菌属を用いたマイクロバイオーム治療は、向精神薬による薬物療法とは別に、統合失調症の、新しい治療法になるかも知れません。
(参考文献)
1. Seo DO, O’Donnell D, et al. Science 379(6628): eadd1236, Jan 13, 2023.
2. Hassib L, et al. Brain Behav Immun Health 43:100923, 2024.
腸内細菌叢と宿主の免疫能の調節
脳腸連関

まとめ
腸内細菌叢と脳が協力した脳腸連関は、体全体の免疫系を調節して宿主を守る働きもしています。
解説
さらに驚いたことに、腸内細菌叢は、宿主の免疫系に影響を与えて、免疫能を調節し、宿主を守っていることが、最近の研究で分かってきました。
たとえば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、腸内細菌叢の善玉菌が、宿主の免疫系をコントロールして、免疫反応の暴走を抑制し、コロナウイルス感染による肺炎の重症化を予防していること解明されました。
さらに、インフルエンザウイルス感染でも、同様に、腸内細菌叢の善玉菌が免疫反応を調節して、インフルエンザウイルスによる肺炎を予防しているというのです。
このように、腸内細菌は、単なる雑菌ではなく、宿主を守るためになくてはならない存在なのです。
腸内の細菌叢が、宿主動物の免疫を調節することは、いったい、どうやって可能になるのでしょうか?
実に不思議です。
この仕組みの詳細は、後半で解説いたします。










